Vol.8 トスキ・ノチェロ

トスキ社(イタリア)



敗戦後の燃えるような気運がトスキ社誕生の原動力に

1945年はイタリアにとって、大きな節目の年でした。第二次世界大戦が終結し、敗戦国として大きな被害がもたらされたとはいえ、ようやく平和に向けての歩みが始まった年なのです。
多くの痛みと破滅的な結果を受けたにも関わらず、イタリア人特有のたくましさや商魂が失われることはありませんでした。むしろ、再建にかける意欲は町々に溢れ、人々はよりよい未来に向けての再出発に燃えていました。
この年、こうした燃えるような気運の中、イタリア北方のエミリア・ロマーニャ州ボローニャ市の西北にある小さな町ヴィニョーラで、一つの酒造メーカーが産声を上げることになります。それがトスキ社です。



トスキ兄弟が挑んだのは世界に向けての大いなる飛躍

トスキ家は、蒸留酒漬けのチェリーを家伝として作り続けてきました。それは、古くから各家庭で伝統的な製法で作り続けられ、王や王子の食卓を飾った貴重な秘薬でもありました。
このチェリーの蒸留酒漬けを初めて商業ベースにのせようとしたのが、二人のトスキ兄弟ジャンカルロとランフランコでした。イタリア全土に巻き起こっていた再建への息吹が、二人にある種のひらめきを与えたのかもしれません。大事に守り伝えて来たものを商品化するということは、製品に対する大いなる自信と、世界に羽ばたこうとする野望がなくてはできないことでした。
この挑戦は、トスキ兄弟の出発点となるのですが、彼らはチェリーの蒸留酒漬けで成功を収めるや否や、すぐさま次の挑戦に全精力を傾け始めました。その一つがアマレーナ・チェリー(チェリーのシロップ漬け)です。種を除いたチェリーをノンアルコールの糖液に漬け込むと、皮から糖分が浸透していき、透明感のある砂糖漬けになります。しっかりとした果肉と風味は、ヨーロピアンチェリーの風格を漂わせ、ケーキのデコレーションをはじめ、イタリアンジェラートに欠かせない逸品として瞬く間に人気を獲得していきました。そして、ヴィニョーラで豊富にとれるりんごや梨、プラム、くるみなどを次々に製品ラインにのせていったのです。こうしてトスキ社は世界に向けて飛躍的に販路を拡大していきました。

ヴィニョーラの恵みであるくるみを伝統的な製法で

さて、いよいよトスキ社の代表リキュールともいうべきノチェロに話を移すことにしましょう。
ノチェロというのはくるみのリキュールのことです。イタリア語では、くるみのことをノチェといいます。このノチェロがトスキ社を象徴するリキュールである所以は、二つの信念が見事に生かされているからです。その一つは、ヴィニョーラの肥沃な土地からとれるくるみを厳選して用いていること。もう一つは、この土地に古くから伝わる伝統的なレシピを尊重するということ。土地に生かされているという敬虔な思いと、伝統に対する誇りが、底流に流れています。
くるみは、ヴィニョーラの丘陵で豊富にとれる果実というだけでなく、古くからこの地域の人々の生活を支える大切な植物でした。中世においては、女の子が誕生するとくるみの木を植えることが慣わしでした。やがて大事に育てた娘が結婚するとき、くるみの木はベッドに生まれ変わって娘とともに人生を歩むことになるのです。まさに幸福と繁栄の象徴だったのです。



ナッティで芳ばしい香りがトスキ・ノチェロの持ち味

トスキ・ノチェロは、こうしたイタリア伝統の味や製法だけでなく、くるみを愛する心も、ともに受け継いだものです。
まだ殻に緑色が残っているくるみの実を破砕し、中性スピリッツに漬け込みます。その一部は蒸留し、一部は浸出・濾過するという複雑な製法は、トスキ社が守り伝えている伝統の真髄ともいうべきもの。こうして作られた原液が、ナッティで芳ばしい香りを生み出します。
この原液を、蔗糖とブドウ糖を水に溶かした中に、つねに撹拌しながら加えていきます。このとき、くるみだけでなく、ヘーゼルナッツの蒸留・浸出液も加えられます。アルコール濃度は24%。こうして作られたものは2週間に渡って熟成され、濾過を行った後にボトルに詰めて全世界に向けて出荷されます。

カクテルはもちろんお菓子作りにも大活躍

トスキ・ノチェロほど個性的なボトルはないかもしれません。エレガントな丸いフォルムはまぎれもなくくるみを連想させますが、なによりユニークなのは飾りキャップに本物のくるみを使用している点でしょう。デリケートな風味や香気とともに、このオリジナルパッケージも、トスキ・ノチェロの名声を高めることに貢献しました。
販売網が世界に広がることと並行してトスキ社が大きな力を入れてきたことが、品質のさらなる向上と顧客サービスの充実です。世界的な品質管理の基準であるISO9002を取得し、全製造過程において徹底した管理が行われています。
トスキ・ノチェロの真価は、カクテルやデザート作りにおいて発揮されます。トスキ社はイタリアバーテンダー協会のメンバーであり、ノチェロの独特な風味を生かした多くのカクテルやドリンクの提案を受けています。カクテルだけでなく、食後酒としてロックや水割り、常温で飲むなど、ノチェロの味わい方は無限。とくにカフェで好評なのが、エスプレッソやカプチーノにノチェロを加えた洗練された味です。
また、一流シェフによるお菓子作りにも活用されており、ヴァニラ、チョコレート、ヘーゼルナッツなどのアイスクリームのトッピングはもちろんのこと、スポンジに打つことによって最適なアンビバージュになります。世界最高のくるみリキュールは、お菓子にデリケートで濃厚な風味をプラスする名脇役なのです。

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