Vol.6 3-タンネン ドイツキルシュ

3-タンネン社(ドイツ)



世界に名だたるキルシュはチェリーの大豊作から生まれた

後世にまで伝わる逸品が誕生するときには、必ずといってよいほど運命的な巡り合わせがあります。この3-タンネン・キルシュの場合は、百年に一度といわれたチェリーの大豊作がそれにあたります。
ドイツの南西に位置するシュヴァルツヴァルトは、東にはドナウ川の源流が流れ、西はライン川に沿ってフランスに面し、南はスイスに面する陽射しの明るい土地。広大な山脈地帯はシュヴァルツヴァルト(黒い森)という名の由来となる濃緑色のもみの木におおわれており、もみの木に守られるように点在する村々は美しい風景画を思わせます。
この地では、古くからぶどうをはじめとする果実の栽培が盛んに行われてきましたが、なかでもチェリーはシュヴァルツヴァルトを代表する果実として人々に親しまれてきました。
1889年の夏、そのチェリーが歴史的な大豊作に恵まれたのです。現在の3-タンネン‐ブレンネライ社の元となったケニンガー社の創始者レオポルド・ケニンガーの妻ソフィーは、大量のチェリーを前に頭を抱えていました。5人の子供たちのためにパイやプディング、ジュースやジャムを作っても作っても、チェリーはまだ山のように残っています。
そのとき、レオポルドとソフィーが思いついたのが、ワイン発酵用の空き樽に余剰のチェリーを入れ、発酵させてみようということでした。ブドウ栽培を手がけていたレオポルドの長年の夢は、自分の蒸留所を作ることでした。その夢が、チェリーの大豊作ということをきっかけにして、いままさに実現されようとしているのでした。
完成したばかりの蒸留所には、輝くばかりの蒸留釜が据え付けられ、レオポルドの手でブナの薪に火がつけられます。やがて、一滴また一滴と、フルーティーで香味豊かなクリアな液体が流れ落ちてきます。レオポルドにとって、初めてのキルシュの一滴でした。

芸術的とまでいわれるキルシュの製造に生涯を賭ける

彼は、この小さくて簡素なスチル(蒸留釜)から、徐々に芸術的とまでいわれる蒸留の技術を学んでいきます。バケツに入れて自らの手でチェリーのマッシュを運び、スチルを熱する薪は自分の森から切り出し、火力の調節は冷水をかけるという単純な作りでしたが、単純であるからこそ、キルシュの真髄に一歩一歩近づくことができたのかもしれません。
こうした高度な技術と情熱は、20世紀の初頭に彼の息子であるヴィルヘルムに引き継がれました。ヴィルヘルムはさらにキルシュの品質を高めるために、チェリーの品種を厳しく選定し、チェリー農園の拡大を手がけます。
すでに17世紀初頭には36種のチェリーが栽培されていたという記録がありますが、ヴィルヘルムの時代にはその品種はさらに多くなっていました。彼は香り高いキルシュに最もふさわしいチェリーの選定と栽培に生涯を捧げることになります。
当時、シュヴァルツヴァルトでは、大型の木樽にキルシュを詰めて大都市の流通会社に販売し、それぞれのブランドでボトリングされるという形態が一般的でした。ここに風穴をあけたのが、ルフィン・ヘルとその妻オルガでした。彼らは1948年にケニンガー社から独立して3-タンネンというブランドを立ち上げ、独自の蒸留所と製造工場をラスタットに設立します。社名は3-タンネン‐ブレンネライ社です。

拡大主義にとらず、あくまでも品質本位にこだわり続ける

フルーツブランデーの複雑な蒸留と製造に熟知した彼らは、それをさらに大きく発展させるのにふさわしい先進の設備を完成させ、ボトリングまで含めた形でのキルシュ販売に乗り出します。
現在、3-タンネンのロゴマークとして知られる三角形の中に描かれた“シュヴァルツヴァルトの3本のもみの木”は、このときに誕生したもの。それぞれ、「伝統」「優れた知識」「品質」を意味しています。
もう一つ、忘れてならないのが、シュヴァルツヴァルトチェリーのシンボルともいうべき絵柄の誕生です。3-タンネン・キルシュのラベルには、14個の羊毛の玉をのせたつばの広い麦わら帽子をかぶる民族衣装の少女が、フルーツブランデーをすすめる絵が描かれています。18世紀頃に登場したこの華やかな帽子は、お祭りや祝祭日には欠かせないシュヴァルツヴァルトの伝統ともいうべきもの。14個の玉は、14人の聖人を表すとされています。
こうしたイメージ戦略も功を奏し、3-タンネン・キルシュは、最高品質のキルシュとして世界に羽ばたいていきました。創業当時からの変わらぬ信念があります。拡大主義をとらずに品質の評価を最大の誇りとし、あくまでも限定販売に徹するという姿勢が一貫して貫かれているのです。
その証ともいえるのが、古式の小さな銅製のスチルにこだわり、1回目はポット・スチル、2回目は蒸留塔を使用するという、デリケートな果実の香味を引き出すのに最も理想的な方法を今も続けていることです。さらに3-タンネン・キルシュの名が与えられるのは、最も高品質な蒸留液の中間部(ハート)のみというこだわりも、社の誇りとなっています。
夏の間にしか採れない完熟した新鮮なチェリーのみを選りすぐり、チェリーマッシュをていねいに準備します。やがて天然酵母の働きでゆっくりと果実の糖分が引き出され、アルコールへと変わっていくと同時に、キルシュ独特のデリケートな風味が引き出され、凝縮されていきます。マッシュに糖類や添加物などはいっさい使用されません。もちろん、冷凍保存のチェリーも一切使いません。
4~5リットルの純粋な3-タンネン・キルシュを作るために使用されるチェリーは100キログラム。つまり、1本の3-タンネン・キルシュには12キログラム、約3000個ものチェリーが息づいているのです。正に世界一の贅沢なキルシュと自負しております。

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