Vol.17 モーラン ウィリアミーヌ

モーラン社(スイス)



果実の楽園ともいえるヴァレーの肥沃な大地

スイスのヴァレーには、2つの最高峰があると言われています。1つは天空にそびえるモンセルヴァン(マッターホルン)、そしてもうひとつはモーラン ウィリアミーヌです。
ローヌ川からモンセルヴァンの頂上にかけて、階段状の土地が伸び上がるように続き、さまざまな表情を見せてくれます。ローヌ川のほとりに広がるのは、豊かな果樹園です。少し登ると、険しい斜面にしがみつくようにぶどう畑があります。その上には小さなライ麦畑と牧草地が入り混じり、もっと上に登ると高山植物が可憐な花を咲かせています。そして、最後に現れるのが雪原と氷河の世界、つまりモンセルヴァンの頂上です。
ヴァレーをやや遠くから眺めたときの美しさは、すべての旅行者を魅了する素晴らしさです。ふもとから頂上にかけて壮大なパッチワークがテラス状に伸び上がるさまは、まさに大自然の女神にしかできない造形美といえます。
大自然の女神が与えてくれたものは、こうした美しい風景だけではありません。峰から吹き降ろす風、さらには斜面から土砂を運ぶ雨が、ヴァレーに肥沃な大地という贈り物を与えたのです。スイスでもっとも乾燥した気候を持つ肥沃な大地には、光が満ち溢れ、多くの昆虫が華麗に舞い、植物の受粉に貢献しています。そこは、まさに果実の生育にとって楽園のような環境なのです。
この恵まれた環境から生まれたのが全世界に知られた洋梨ブランデー、モーラン社のウィリアミーヌです。

天才のひらめきで誕生した究極のフルーツブランデー

ヴァレーの太陽がいっそうの輝きを増す初夏から初秋にかけて、ローヌ川のほとりの果樹園は成熟の季節を迎えます。さまざまなベリー類、フランボワーズ、アプリコット、りんご、プラム、マルメロ、そして洋梨…。次々に完熟して糖度を増してくる果樹たちを最良の状態で収穫するために、一年でもっとも忙しい季節になるのです。
この地では、古くから洋梨のオードヴィが作られていました。しかし、当時は数種の洋梨を一緒に蒸留することが常識とされていました。数種の洋梨を使うことでバランスのとれたオードヴィができると信じられていたのです。この常識を覆したのが、モーラン社の二代目に当たるアンドレ・モーランでした。
モーラン社の創立は1889年。ルイ・モーランがヴァレー州のマルティニーに蒸留所を開いたことに始まります。ヴァレーの特産の一つである高山植物を蒸留した「グランサンベルナール」「サンロン」というリキュールは、パリやジュネーブの国際コンクールで金賞を受賞しました。
アンドレ・モーランが父親から事業を受け継いだのは19歳のときでした。アンドレは直感力に優れた情熱的な資質をもっており、アプリコット、りんご、フランボワーズなどのリキュールを造って成功を収めるのですが、彼の最高傑作といえるのが天才的なひらめきで造り上げたモーラン ウィリアミーヌです。
前記のように、数種の洋梨をブレンドして造ることが常識とされていたオードヴィを、彼はポワールウィリアムのみに限定して造ることを思いついたのです。黄金色に輝くウィリアム種には、他の洋梨にはないデリケートで上品な香りがあります。このときから彼の挑戦が始まりました。
一定の時を過ごしながら成熟していくポワールウィリアムのオードヴィ。その透明な液体を最初にグラスに注いだとき、そして口に含んだとき、彼は成功を確信したといいます。驚くほど繊細で長持ちする芳醇な香り…。それは、エレガントなハーモニーそのものでした。こうして究極の洋梨ブランデー「モーラン ウィリアミーヌ」が誕生したのです。1953年、彼が父の事業を受け継いでから39年目のことでした。

地元の消費者から旅行者へとしだいに広がっていった販路

モーラン ウィリアミーヌは、発売とともにしだいに人々を魅了していきます。1953年にはわずか数百本に過ぎなかった出荷数は、20年後には20万本に増え、1980年には50万本に達し、今なお増えつづけています。
特筆すべきなのは、モーラン ウィリアミーヌの名声を高めるために、モーラン社はいっさいの宣伝広告に頼らなかったということです。最初に魅力に挽きつけられたのは地域の消費者でした。やがて、その波は全国に広がり、旅行者をも虜にしていきます。スイスを訪れる観光客は、スイスの、そしてヴァレーのシンボルとして、モーラン ウィリアミーヌを友人や家族に持ち帰りました。それは、美しいヴァレーの山々や豊かな自然を表現する、とっておきのお土産だったのです。
透明なフルートボトルには、マルティニー果樹園に聳え立つ城と洋梨の絵が描かれています。そして中に詰められた透明なオードヴィ。グラスに注いだときに立ち上る芳醇な香りは、いまやヨーロッパの至宝とまで賞されています。

蒸留釜に火入れをするのはモーラン家代々の当主の役割

モーラン ウィリアミーヌ1リットルには、最上級のポワールウィリアムが11キログラム使用されています。製造地域、品種、栽培方法、収穫方法、保管方法、蒸留方法に至るまで、AOC(原産地呼称統制法)によって厳しく限定されていることはいうまでもありません、スイスの法律の厳格さは、世界でも有数のものなのです。
自社果樹園で8月から9月にかけて収穫された完熟のポワールウィリアムは直ちに蒸留所に運ばれ、ヴァレー政府の立会いのもとにモーラン家がチェックを行い、品質管理の規定に従って選別されます。
選別された果実は粉砕されて丁寧にピューレにされ、発酵が終了するまでエナメル塗装された大樽で保管されます。発酵が終了すると、モーラン家伝統のレシピでゆくりと蒸留されていきます。現在に至るまで、蒸留釜に火入れを行うのはモーラン社の最高責任者です。やがて、滴り落ちる透明な液体。そこからヘッドとテールが取り除かれ、透明なクリスタルのようなハートのみが使用されることになります。
蒸留後、6ヶ月から8ヶ月もの間、オードヴィは眠りの季節に入ります。その間に、落ち着きがもたらされ、生まれたての果実のもっとも純粋で洗練された香りが生まれてくるのです。
三代目のルイ・モーランによって世界的なブランドとして確立されたモーラン ウィリアミーヌは、今では高級レストラン、大手酒販店、専門店、高級デパートで販売されている他、機内販売でも取り扱われています。スイスが誇る伝統の賜物、ウィリアミーヌは世界中のポワール ウィリアムの愛飲家が最後に辿り着く、まさに究極の洋梨ブランデーなのです。

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